なないろの音符たち

バイオリン&ハープ、日本&ロシアのつれづれ日記

ジョナサンに教わったバイオリン演奏の秘訣

ジョナサンはたしか台湾人だったと思う。

先日台湾出身の方にお会いして、ジョナサンの思い出が突如としてよみがえりました。
あれから23〜4年位も経て、今、くっきりと…

※※※

ジョナサンは一見日本人に見える、イギリス育ちのアジア人だった。
知的で素敵、美形と言われない美形、強烈な個性はなく全般によい人、キリッとして整っていた。

時々図書館で会っても、集中していて話しかけにくかったが、同じバイオリンで、同じクラスがあった。

そこで少し聞くと、オクスフォード大学を卒業して、ロイヤルアカデミー(RAM)に来たのだそう。

オクスフォードでは何を専攻したの?と聞くと、
「ロー。」
まあ、オクスフォードの法学部から、音楽の大学院?
「うん、〇〇教授が呼んでくれて。それなら来てみようかなって。」
(イイわねえ…その余裕… 私なんて必死で来たのに…)

そのジョナサンは、公開レッスンで
ブラームスのバイオリン協奏曲を弾いていた。

それがまた完璧で、何の不自由もなく、指は揃い、弦にピッタリ。暗譜の問題など無論なく、姿勢は安定、音が良く、均整のとれたタイプ。
その上で、ブラームスらしいのが一番ニクい。
レコードを聞くようだった。。

先生にも褒められ、
もう一回弾いてとか、先生も喜んでいるだけ。

私…この曲、、じつは今一生懸命練習してるんですけど…、弾けば弾くほど難しく、
もう今度の卒業試験で弾くんですけど!

クラスの後で私は謝りに行っちゃって。 
(試験、私も同じ曲なのだけどヘタでゴメンネ、気にしないでね、みたいな?)

そしたらジョナサンは、
「いや、試験は他の曲を弾くんだよ、気にしないでいいよ、」とサラリ。アラ余裕〜〜
その実力、一曲でも分けてほしいー!

※ロイヤルアカデミーの卒業試験とは 
 弦 1998年当時は
 45分のリサイタルと
 コンチェルト一曲
(近くなるまでどの楽章を弾くかわからない)
 でした。

 彼はいったい何弾いたんだろ。あんまりサラリと言われると次を聞けないが、端正で正統的なところはBeethovenなんか似合うかしら。
試験は公開されてもいたが、私はそれどころではなかった。

しかも私は音大で4年間がんばってきたのに拘らず、ジョナサンは法律を猛勉強しながらバイオリンを習ってきたなんて〜(居るんですよねー、すごい人って。。)

弁護士になろうか、音楽家になろうか、どうしようかな、やってから考えると言っていた。私が聞いたからだけど…
才能違い過ぎ…↗↗ ⤵⤵


その時私はよく思い切ったものだ。

私の演奏に助言してもらえないかと聞いたのだ。
「じぁ、 今ちょっと空いてるから」
と軽くOKしてくれて、(Wow!!)
二人で近くの空き部屋に入った。 

・・🚪・・

むろん、私は先ほどジョナサンが弾いた曲をすぐ弾いた。
出来は雲泥の差。
さしずめ高速走って《抜かしていく》高級車と、
路地に《とまってる》愛着あるポンコツ車、という所か?ww

車ならどっちがイイなんて、好みだけれど、ここは音楽院。よく恥ずかしくなかったな、と思うが、それ以上に困っていたからかもしれない。

私は、ビブラートの速さが…とか、私の指は…とか、和音が…とか、ブラームスの弓の圧力が…とか、でも私の弓の張りは…とか、、色々な点について訊いた。

ところがジョナサンは、そんな事にいっさい返答せずそっけなく次々と聞き流し、ただ、こう言ったのだ。

「君は、自分の弾けないのがどうだとか、困っている所をどうしょう、とか言っているけれど、それは関係ないよ。」   
   
(えっ 関係ない…? こんなに大変なのに?)

「ただ、『自分がこうなりたい!』
それ『だけ』をイメージするのさ。
そしてそれに近づくのみだよ。」

あの時それを真剣に言ってくれたジョナサンを思い出す。
それだけが、重要だと。

もうちょっと何かお話してみたかった気もするが、、
それ以外言う事のないジョナサンは、じゃあねと部屋を出ていった。

・・・🚪・・・パタン

行っちゃった。なんか淋しい… 
それにごめんね〜こんなレベルのお見せして…呆れられたかな?
車なら、走りが違い、走ってる場所も違うけど、もとの車からして性能違う・・・よね ガク⤵

確かに、出来ない所を認識していると、「認識」が更に「出来ない」を生む。

だから、日頃「いえ、ダメなんです」とか「私〇〇なので出来ないんです」なんて言葉を発するのさえ、脳が認識してしまうので控えねばならない。

それ以来、
私も考え方を改めて、ひたすらイメージに近づこうとしてきた。

なかなかジョナサンの言うほど出来たかわからないが、その言葉はバイオリンだけでなく色々な物事に通じるので、私の人生に役立ち、自分のイメージに驚くほど近づけたと思う。(以前より!の意)


自分の思う人生に、近づき歩む、か・・・


それこそジョナサンは、あれからどうしたろうか。。

ロンドンのシンフォニーオーケストラに入ったら、すごく楽に弾けてるだろう。
(そのオケLSOには他に、卒業と同時にサブコンマスに抜擢された同僚タマーシュも居る。)


私は、ジョナサンは、、
弁護士になった方が良いと思う。彼はそうしたかも知れない。

無論収入の面もあるが、
まずソリストになるなら、あまりに苦労知らずに正確にサラサラ弾けて、目を見張り、感動もするのだが、逆に、感動しないかもしれない。
「その音」が出ているのだが、まるで出ているように見えないかも知れない。
それに、「何としてもなりたいんだ!」という強い個性と想いも必要。

もしプロオーケストラに入るなら、あのタイプは何でもござれだ。
しかし、同時に大学などでも教えるとなると、、彼は楽に弾けすぎて教えられないと思う。
弾けない人のことが解らないし、もしかしたら、日々我慢できないかも…

毎週毎週、生徒へのレッスンで
「君は、君のイメージに向かわなくちゃダメだよ。
それだけを考えるんだ!それこそが重要だよ」

もね…(笑)


彼ほど、バイオリンを弾くに何の障害もない手指をしている人を、私は自分の先生も含め見たことがない。

丁度よい太さで、丁度ピッタリのビブラートがかかり、
小指も全て同じ向きの指で(!)、どの音も均一に押さえられ… (少し分けて!)

もし、ジョナサン〜〜という名の知的なバイオリニストか弁護士を見かけた人がいたら、教えてほしい…

ちょっと、若い時のチェンバリスト中野氏に似ています。

✨✨

今思い返せば私のなかで、ジョナサンの言葉は成長していたのだと思う。
ジョナサンはもうとうに忘れているかも知れないけれど… あの時は有り難う、ジョナサン。



2021.5月加筆しました